今回は「他者意識」についてお話します。
この考え方は、入試問題を解く際にも絶対に必要ですし、社会人として活躍していく上でも非常に重要です。他者への意識を持つだけで、コミュニケーションの質が大きく変わってくるのです。
他者意識
「他者意識」という言葉は少し厳しく聞こえるかもしれませんが、決して相手に厳しく接することを意味するわけではありません。
私たちは皆、異なる肉体と経験を持つ、別々の存在です。たとえ家族であっても、完全に理解し合うことは容易ではありません。だからこそ、他者意識を持つことが重要なのです。
社会人指導をしていると、多くの人が「感情的になりやすい」「相手を怒らせてしまう」「コミュニケーションがうまく取れない」といった悩みを抱えていることに気づきます。これらの問題の解決には、他者への意識が大きなカギを握ります。
人間は、自分が主人公であると信じ、すべてを主観的に見てしまいがちです。例えば、私が講演を行う時、私の言葉や存在は、聴衆一人一人の目を通して、それぞれ異なる形で認識されます。私を知っている人、知らない人、過去に私の講義を受けたことがある人、私の本を読んだことがある人、初めて出会う人…それぞれが、過去の記憶や経験に基づいて、私を異なる形で見ているのです。
自分中心の思考から抜け出す
頭の良し悪しに関わらず、人間であれば過去の記憶や経験に基づいて考えることは避けることのできない事実です。つまり、私たちは皆、自分の視点から物事を捉え、自分の基準で判断しているということです。
感情が高ぶると、私たちは自分の視点に囚われ、相手の視点を見失ってしまいます。その結果、相手を間違っていると決めつけ、感情的な反応をしてしまうのです。
このような状況では、まず冷静になって、相手が同じ状況をどのように捉えているのかを考えてみましょう。相手の視点から理解することで、自分の反応を見直し、より適切な対応ができるようになります。
他者の視点を理解することは、感情をコントロールし、コミュニケーションを円滑にするための第一歩です。私たちは、日常の中で、意識的に他者意識を持つように心がける必要があります。そうすることで、人間関係がより良好になり、理解し合える環境が築かれるのです。
大人だって現代文、解いてみませんか?
「大人になっても現代文の問題を解くように勧めているのですが、なぜ文章を正確に読み取って理解することができないのか、不思議に思いませんか?」
よく耳にする言葉ですね。確かに、国語の試験は、英語や数学と違って満点がなかなか出ないものです。7割以上取る人も少なく、かといって2割、3割という低得点も少ない。
日本語で書かれた文章なのですから、そこに答えはすべて書いてあるはずなのに、なぜ満点を取れないのでしょうか?なぜみんな5割、6割前後で終わってしまうのでしょうか?
実は、この疑問の答えはシンプルです。私たちは、無意識に主観を文章に持ち込んでしまっているのです。
活字化された文章は、筆者が筋道を立てて書き上げたものです。つまり、その文章を読むということは、筆者の意識で文章を読まなければならないということです。
主観的な自分を入れずに、筆者の立てた筋道を意識して文章を読む。そうすることで、自然と「他者意識」が芽生えてきます。
この「他者意識」は、日常生活でも非常に役立ちます。上司だろうが同僚だろうが、家族だろうが、相手は自分とは異なる視点を持っているということを意識することで、より深く理解し、円滑なコミュニケーションを築くことができるのです。
意識的に「他者意識」を育む訓練を続けることで、自然と様々な視点から物事を捉えられるようになり、より客観的な判断ができるようになります。
例えば、戦争や紛争においても、自分の国の視点だけで物事を捉えてしまうと、相手国の立場や考え方を理解することができず、対立が深まってしまいます。
様々な視点から物事を捉えることの重要性を教えてくれるのが、小説の問題です。
小説は、作家が脳裏に描いたイメージを読者の脳裏にも再現させようと、言葉を紡いでいます。
例えば、「ある一人の若い女が…」と書いてあった場合、読者はそれぞれ異なるイメージを頭に思い描くでしょう。
小説の問題は、登場人物の気持ちや心情を読み取る問題が圧倒的に多いですが、これは決して簡単なことではありません。
なぜなら、小説は評論のように論理的に説明するものではないからです。登場人物のセリフや動作を通して、その心情が表現されます。
つまり、小説を読むということは、主観的に読み取るのではなく、与えられた文章から客観的な根拠を拾い出し、主観を入れずに分析していく訓練なのです。
現代文の問題を解くことは、単に国語の試験対策だけでなく、他者意識を育み、客観的な思考力を養うための有効な手段なのです。
大人になっても、現代文の問題を通して「他者意識」を磨いていくことで、より豊かな人生を送ることができるのではないでしょうか。
ぜひ、大人も子供も、現代文の問題に挑戦してみて下さい。
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