コラム

最強のプロ国語教師は、平成の吉田松陰だった~志桜塾代表 長谷 剛先生~第2部 オープンスキル、クローズドスキル(3)
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Writer S

前回のコラムに引き続き、第2部のラスト3回目をお届けします。

東大入試は県大会レベル

長谷 記憶って一般的に、短期記憶と長期記憶に分類されますが、国語は覚えない教科だから、長期記憶の機能ではなく、短期記憶の機能を使うべきなんです。
今日も授業で話すのですが、短期記憶とは、どういう記憶なのか説明したところで、「国語には作業記憶を使えばいい。でもこれは限界がある。長期にはならないし、数分しかもたない。だったら、記憶が持たないという事実を前提にすると、君たち、次何をすべきかな?」という風に考えさせれば、生徒は自然と線を引っ張って、図式化するんですよ。

―― 面白いアプローチですね。

長谷 だから、みんなが、国語の勉強は暗記が効かないし、そもそも勉強の仕方がよく分からないと言うのは正解なんですね。
じゃあ、勉強しなきゃいいんです。きちんと短期記憶でその場で組み立てていけば、できるはずなんですよ。

―― 衝撃的な発言ですね。

長谷 君たちの言うとおりにやればいいんだよ、と。
ただ、やり方において、「ちょっとこうしたら」っていう、少し理屈を入れてやってあげるだけです。なので、そんなにそもそもの力、センス等が違ったりするのではないと思っています。

―― そのあたり、もう少し詳しく教えてください。

長谷 国語はセンスの教科でもあるんですが、求めるレベルの話だと思うのです。
例えば、運動ができる子が単純にセンスがあるか。島根出身の有名なテニスプレーヤー、錦織選手は、おそらくセンスを持っているでしょう。
でも、そのセンスは世界に通用するプロに求められているものであって、センター試験や東大入試がこのようなセンスを求めているのかというと、実は全然そうじゃない。インターハイに出場するよりも、もっと下だと思うんです。

―― 私もそう思います。

長谷 確かにセンスの存在って、分かりますよ。すごいセンスを持っている子は、いることはいます。だけど、僕たちは世界ナンバーワンを作ることを目標にしていないですし、センターや東大レベルだったら、やっぱり地区予選をちょっと抜けるとか、県大会でベスト16に入るとか、そのレベルで十分なんだから、という話をするんですね。

―― なるほど。

長谷 だから、それでいいじゃないかと。入試をクリアした子にセンスがあって、実際、もっと強化すると、素晴らしいプレーヤーに化けるかもしれません。けど、それはもう、大学の先生など、もっと賢い先生に教わってやればいいことで。そこから上のレベルって、テニス界でもいろいろコーチがいるんですよ。

―― はい。

長谷 だから、それぞれ次のコーチにバトンタッチすればいい。僕らはここら辺の、県大会までで、初心者からはじめた子を県大会で、ベスト8入れますよとか。
で、ベスト8入った子は、次、大学という場でさらなるエリートコーチに教わり、さらにそこでできる子は、もっと特別のコーチに教わればいいんです。
錦織圭選手だって、何人もコーチが変わっています。その時々に目的があって、コーチをつけていくわけですから。

―― なるほど。

長谷 それでいいと思うんです。だけど、東大生もそうですけども、いまだに教わりたいっていう子はいますけど。

―― だと思います。

長谷 でも、やはり、次の新しい刺激を受けた方が良いと思うんですね。そこは皆さん、すごく大きく誤解されている。

―― 確かにそうですよね。スポーツの世界でトップに立つことは、勉強よりもはるかに レベルの高いことだと思います。それこそオリンピックでも、銀メダルや銅メダルだったから、という理由だけで叩かれますけど、そこに上り詰めるまでに、どれだけ人とは比べものにならないぐらいの努力をしているか。それなのに、見ず知らずの酔っ払いにまで、「メンタルが弱いからだ」などと批判されてしまう(笑)。

長谷 しかも、勉強はトーナメント制ではないから、相手がめちゃくちゃ強い、ということはない。常に敵は自分です。自分にさえきちんと勝てば、センター試験というのは軽くクリアできるのに、みんなトーナメントだと思っている。

―― 思っていますね。

ほんとうの進路指導

長谷 大学も、いま残念なことに、ある程度輪切りはされてくるので、その狭い空間で戦って勝てば、合格って実は簡単に出来るんです。それを知らずに、常に、全員が同じ目標に向かって、同じゴールに向かって走るっていうのは、やっぱり子供にとってはしんどいですよ。

―― そうですね。

長谷 「今、この瞬間に、10秒50で100メーター走れって言われても、無理だよ。それは目標としてあるかもしれないけども、今16秒の子だと、そもそも筋肉から変わらないといけないのに」って、良く言います。
だけど、教育界というのは、本当にみんな真面目な顔をして、誠実な人間が「頑張れ!」って周りで応援するんですよ。

―― なるほど。

長谷 悪意がないんです。しかも親も、先生も、ものすごい涙を流して、「頑張れー」って、みんなが応援するんです。でも、そんな筋肉がついていない、運動の機能も知らない子が、10秒とか11秒を切れと言われても、急には絶対に無理です。

―― はい。

長谷 だったら段階を追って、いま、この子には何をどう教えたらいいのか、というのを適切にアドバイスしてあげて、彼らからやるように仕向けてやらないといけないのです。応援しているみんなには、本当に悪気はないんです。心の底から拍手しているんですよ。

―― 私も含めて。

長谷 全員が。親も。

―― 酷ですね。

長谷 だと思いますね、見ていて。
だから、「そんなこと、どうでもいいじゃん」というところから、私は授業を始めます。
進路指導も、確かにそれは目標としてあるかもしれないけれど、だったら「その目標に向かって、今何をしたらいいか」についてしっかり考えさせてあげる。そして、実際のところは少しだけ背中を押してあげるという形でやれば、本当に子供って、「これでいいんだ」と思った瞬間に、すごく良く伸びますよ。
だけど、こちらの内心としては、絶対に走らせてやると思っています。
「10秒切りたい」って生徒が言うんだったら、「10秒切るためのプログラムは自分が作るよ」って内心では思っています。

―― なるほど。

長谷 だけど、そのために、周りが「頑張れ、頑張れ」と言ってつぶすようなことはしたくないですね。それをやってもうまくいかなかった経験あるので。
現実、私の教え子にも、私からそういうふうな仕打ちを受けて、やっぱり嫌になった子もたくさんいると思うので。うまくいった子は、今こうやって私のブログにコメントを書いてくれますけれど、その分、同じように、多分うまくいかなかった子もいたので。
僕にとっては、「そういう子がゼロになる」、というのが最終目標かもしれないですね。

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