東大入試は県大会レベル
長谷 記憶って一般的に、短期記憶と長期記憶に分類されますが、国語は覚えない教科だから、長期記憶の機能ではなく、短期記憶の機能を使うべきなんです。
今日も授業で話すのですが、短期記憶とは、どういう記憶なのか説明したところで、「国語には作業記憶を使えばいい。でもこれは限界がある。長期にはならないし、数分しかもたない。だったら、記憶が持たないという事実を前提にすると、君たち、次何をすべきかな?」という風に考えさせれば、生徒は自然と線を引っ張って、図式化するんですよ。
―― 面白いアプローチですね。
長谷 だから、みんなが、国語の勉強は暗記が効かないし、そもそも勉強の仕方がよく分からないと言うのは正解なんですね。
じゃあ、勉強しなきゃいいんです。きちんと短期記憶でその場で組み立てていけば、できるはずなんですよ。
―― 衝撃的な発言ですね。
長谷 君たちの言うとおりにやればいいんだよ、と。
ただ、やり方において、「ちょっとこうしたら」っていう、少し理屈を入れてやってあげるだけです。なので、そんなにそもそもの力、センス等が違ったりするのではないと思っています。
―― そのあたり、もう少し詳しく教えてください。
長谷 国語はセンスの教科でもあるんですが、求めるレベルの話だと思うのです。
例えば、運動ができる子が単純にセンスがあるか。島根出身の有名なテニスプレーヤー、錦織選手は、おそらくセンスを持っているでしょう。
でも、そのセンスは世界に通用するプロに求められているものであって、センター試験や東大入試がこのようなセンスを求めているのかというと、実は全然そうじゃない。インターハイに出場するよりも、もっと下だと思うんです。
―― 私もそう思います。
長谷 確かにセンスの存在って、分かりますよ。すごいセンスを持っている子は、いることはいます。だけど、僕たちは世界ナンバーワンを作ることを目標にしていないですし、センターや東大レベルだったら、やっぱり地区予選をちょっと抜けるとか、県大会でベスト16に入るとか、そのレベルで十分なんだから、という話をするんですね。
―― なるほど。
長谷 だから、それでいいじゃないかと。入試をクリアした子にセンスがあって、実際、もっと強化すると、素晴らしいプレーヤーに化けるかもしれません。けど、それはもう、大学の先生など、もっと賢い先生に教わってやればいいことで。そこから上のレベルって、テニス界でもいろいろコーチがいるんですよ。
―― はい。
長谷 だから、それぞれ次のコーチにバトンタッチすればいい。僕らはここら辺の、県大会までで、初心者からはじめた子を県大会で、ベスト8入れますよとか。
で、ベスト8入った子は、次、大学という場でさらなるエリートコーチに教わり、さらにそこでできる子は、もっと特別のコーチに教わればいいんです。
錦織圭選手だって、何人もコーチが変わっています。その時々に目的があって、コーチをつけていくわけですから。
―― なるほど。
長谷 それでいいと思うんです。だけど、東大生もそうですけども、いまだに教わりたいっていう子はいますけど。
―― だと思います。
長谷 でも、やはり、次の新しい刺激を受けた方が良いと思うんですね。そこは皆さん、すごく大きく誤解されている。
―― 確かにそうですよね。スポーツの世界でトップに立つことは、勉強よりもはるかに レベルの高いことだと思います。それこそオリンピックでも、銀メダルや銅メダルだったから、という理由だけで叩かれますけど、そこに上り詰めるまでに、どれだけ人とは比べものにならないぐらいの努力をしているか。それなのに、見ず知らずの酔っ払いにまで、「メンタルが弱いからだ」などと批判されてしまう(笑)。
長谷 しかも、勉強はトーナメント制ではないから、相手がめちゃくちゃ強い、ということはない。常に敵は自分です。自分にさえきちんと勝てば、センター試験というのは軽くクリアできるのに、みんなトーナメントだと思っている。
―― 思っていますね。