学校改革の羅針盤
―― 「思考ルート」の原稿をご覧になった先生に伺うと、驚くほど反応が良いんです。
「ここまで公開するのですね」という感想をいただいたいたこともございます。非常に注目を浴びる教材になるであろうことは、おそらく間違いないと思います。
今回、執筆していただいた「思考ルート」をあえて一言で表現すると、「学校改革ツールの輸出」ともいえる存在に仕上がったかと考えております。
教材という枠を超え、全国どこであっても、最先端の論理教育を施すためのアイデアや、学校改革のアイデアが惜しみなく詰め込まれている、そんな印象を受けました。ご採用校の先生方にとっては、羅針盤ともいえる存在になると申しましょうか……。
加藤 ありがとうございます。「論理エンジン」の学習には必ず指導者が必要ですよね。そこで、「思考ルート」は、できるだけ指導者によってブレがないよう、書き過ぎといわれるほど(笑)、丁寧に制作いたしました。
ベースにあったテーマは、“「論理エンジン」導入の際のジレンマの克服”です。開智もS類(最上位類型)をスタートさせたときに「論理エンジン」を導入したのですが、その際一番強いジレンマになったのは、「なぜこんな簡単な教材を高校生にやらせるのだ」ということでしたから。
―― はい。
加藤 「これをやって、本当に国語の力がつくのか」と、うちの教員や私も思ったぐらいですから、他校の先生方も、おそらく同じ疑問を持たれると思うのです。
―― はい、おっしゃる通りです。
加藤 よく研修会では申し上げるのですが、「論理エンジン」を私が導入したのは、国語力をつけるためではなく、国語力を鍛えるためです。
例えば、運動にたとえると、バレーボール上達のためには、腹筋やランニングといった体力づくりだけを行っていてもダメですよね。当然、バレーボールの技術を学ばなくてはなりません。しかし、基礎体力がないと、絶対に上達することはありえません。「論理エンジン」の学習というのは、いわば基礎体力を鍛えることなんですよ。
―― なるほど。
加藤 英語や数学については、基礎体力をつける学習を我々は意図的に行います。しかし、特に日本語、現代文は、意図的に学習しなくても、自然に話せたり、読めるようになってしまう。我々が、歩き方を教わっていなくても歩くことができることと同じですね。
しかし、「自分たちの国語力は、自然に身についてしまった、日常生活に最低限必要なレベルの日本語力にすぎない」、ということを生徒たちに気づかせることができないと、その先の学力向上は絶対にありえないんです。
―― はい。
加藤 そのことを気づかせてくれる教材が、この「論理エンジン」なのです。先生、生徒がそこに気づきさえすれば、意図的に日本語力を鍛えることを意識するようになるので、国語力を伸ばすことができるようになります。
そして、それは頭の使い方を学習するわけですから、「国語ができる」ということだけにとどまらず、「国語もできる」ということにつながっていくのです。
―― なるほど。
加藤 我々は、国語を受験勉強のために学んでいるわけではありません。国語はコミュニケーション・ツールなのです。社会に出ていちばん大切なのは、そこのところですよね。勉強さえできるようになればいい、という考え方は、大学にさえ受かればいいっていう考え方とイコールです。そんなちっぽけなことを目標とするのであれば、別に「論理エンジン」をやらなくてもいいとさえ思っています。