コラム

論理エンジンと教科書の架け橋となる教材「思考ルート」第1部~「思考ルート」とは何か~
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Writer S

 日本の教育界のために常に惜しみなくご自身のメソッドを披露してくださる、本コラムでもお馴染みの開智高校の加藤克巳(かとうかつみ)先生。
その加藤先生が開発された「思考ルート」は、論理エンジンと教科書の架け橋となることを目指して制作され、すでに原稿を見ていただいた先生方からは多くの称賛の声が寄せられています。
はたして「思考ルート」とはどのような教材なのでしょう。
 今回は「論理の匠」特別編と題して、加藤先生への特別インタビューをお送りいたします。

学校改革の羅針盤

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―― 「思考ルート」の原稿をご覧になった先生に伺うと、驚くほど反応が良いんです。
「ここまで公開するのですね」という感想をいただいたいたこともございます。非常に注目を浴びる教材になるであろうことは、おそらく間違いないと思います。
 今回、執筆していただいた「思考ルート」をあえて一言で表現すると、「学校改革ツールの輸出」ともいえる存在に仕上がったかと考えております。
 教材という枠を超え、全国どこであっても、最先端の論理教育を施すためのアイデアや、学校改革のアイデアが惜しみなく詰め込まれている、そんな印象を受けました。ご採用校の先生方にとっては、羅針盤ともいえる存在になると申しましょうか……。

加藤 ありがとうございます。「論理エンジン」の学習には必ず指導者が必要ですよね。そこで、「思考ルート」は、できるだけ指導者によってブレがないよう、書き過ぎといわれるほど(笑)、丁寧に制作いたしました。
 ベースにあったテーマは、“「論理エンジン」導入の際のジレンマの克服”です。開智もS類(最上位類型)をスタートさせたときに「論理エンジン」を導入したのですが、その際一番強いジレンマになったのは、「なぜこんな簡単な教材を高校生にやらせるのだ」ということでしたから。

―― はい。

加藤 「これをやって、本当に国語の力がつくのか」と、うちの教員や私も思ったぐらいですから、他校の先生方も、おそらく同じ疑問を持たれると思うのです。

―― はい、おっしゃる通りです。

加藤 よく研修会では申し上げるのですが、「論理エンジン」を私が導入したのは、国語力をつけるためではなく、国語力を鍛えるためです。
 例えば、運動にたとえると、バレーボール上達のためには、腹筋やランニングといった体力づくりだけを行っていてもダメですよね。当然、バレーボールの技術を学ばなくてはなりません。しかし、基礎体力がないと、絶対に上達することはありえません。「論理エンジン」の学習というのは、いわば基礎体力を鍛えることなんですよ。

―― なるほど。

加藤 英語や数学については、基礎体力をつける学習を我々は意図的に行います。しかし、特に日本語、現代文は、意図的に学習しなくても、自然に話せたり、読めるようになってしまう。我々が、歩き方を教わっていなくても歩くことができることと同じですね。
 しかし、「自分たちの国語力は、自然に身についてしまった、日常生活に最低限必要なレベルの日本語力にすぎない」、ということを生徒たちに気づかせることができないと、その先の学力向上は絶対にありえないんです。

―― はい。

加藤 そのことを気づかせてくれる教材が、この「論理エンジン」なのです。先生、生徒がそこに気づきさえすれば、意図的に日本語力を鍛えることを意識するようになるので、国語力を伸ばすことができるようになります。
 そして、それは頭の使い方を学習するわけですから、「国語ができる」ということだけにとどまらず、「国語もできる」ということにつながっていくのです。

―― なるほど。

加藤 我々は、国語を受験勉強のために学んでいるわけではありません。国語はコミュニケーション・ツールなのです。社会に出ていちばん大切なのは、そこのところですよね。勉強さえできるようになればいい、という考え方は、大学にさえ受かればいいっていう考え方とイコールです。そんなちっぽけなことを目標とするのであれば、別に「論理エンジン」をやらなくてもいいとさえ思っています。

思考ルートを使いこなすためのコツ

―― 「思考ルート」は、実際の教科書の文章を題材に、「論理エンジン」の方法論を、生徒が具体的に活かして使えるようになるために、目から鱗(うろこ)が落ちるようなテクニックが披露されていますよね。論理を自分のものにするための仕掛けにおいて、大変工夫されていると感じています。
 例えば、全段落の要点をピックアップさせて、文の要旨をつかんでいく指導法。そのために段落の要点を具体的にとらえるための技術。さらに、長い一文は文単位で捉えるだけでなく、パーツにまで細分化させるテクニックなど……。
 きちんと論理を習得できるよう、段階的にプロセスを踏ませる工夫が優れているので、教科書を使用していない教場、たとえば塾における指導でも役立つと感じました。

加藤 そうですね。多分、塾でもできると思います。ただ、学校と塾の決定的な違いは、1週間当たりの授業数の違いでしょうね。多分、塾は、国語の時間が週1回ぐらいしかないのではないでしょうか。そういう場合は、「思考ルート」を短期集中講座などで短くまとめて、使ってもらえればいいと思いますね。


―― では、「思考ルート」を使う際、ここを意識して使ってほしいというポイントがございましたら、教えてください。

加藤 そうですね。まず教える側からすると、「思考ルート」で取り上げた教科書単元は、「東京書籍版」にしろ、「第一学習社版」にしろ、新人教員でない限りは、すでに教えたことがある教材ばかりをあえてピックアップしています。
 ですから、まずは従来の自分の教え方と、この「思考ルート」とのアプローチの相違点がどこにあるのか、ということを最初に考えていただくのが一番良いのではないでしょうか。

―― なるほど。

加藤 次に、類似点を意識していただくことですね。「ここは自分の指導方法と同じアプローチの仕方をしている」という、類似点を見つけていただく。
すると、自分が設定した単元の時間の中で、どう組み合わせていくかに頭を絞るだけで済みますからね。つまり、自分と同じところは、あえてこの「思考ルート」の手法をとらないで、従来のオリジナルの手法でやって頂ければ時間短縮につながると思います。

そして、自分との相違点との橋渡しをどのようにしていくのか、について少し考えていただければ、すぐに使いこなすことができると思うのです。

(次回に続く・・・)

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