コラム

論理エンジン研修会の超人気先生~開智学園開智高等学校・加藤克巳先生~【後編】(1)「受験対策、そして学校改革」
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Writer S

――思考の筋道を問う”発問”。生徒の論理的な答え。授業に取り組む両者の姿勢。味わったことのない一体感。そして、ポイントをシステマティックに叩き込む的確な解説――
もしかすると、加藤先生の授業だけで「論理エンジン講義の実況中継」が出版できてしまうのではないか。
そんな思いを引きずりながら、再度、加藤先生の授業を拝見するために取材班は高3のクラスへと向かいます。
ここでは高2の冬に学習を終了した論理エンジンの方法論をベースに、いかに入試問題を解くかという実戦的な授業が展開されるようです。 さて、それでは再び”論理の匠”加藤先生の授業を一緒にのぞいてまいりましょう。

冒頭、論理エンジンを振り返る

高3クラス、今日の授業はセンター試験対策の問題が題材です。加藤先生は設問のみにとどまらず、各段落の要点をまとめ、段落の構造を探り、文を要約させる課題に取り組ませようとしています。生徒に取り掛からせる前にまずは先生の一言。
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加藤先生:問題は解いてありますね。それでは今から、各形式段落を確認していきましょう。
その前に評論文は久しぶりなので、まずは評論読解のルートを再確認します。

最初は論旨の確認でしたね。論旨とは何か。言い換えると、これは話題であり、すなわちテーマであるということでした。
次に、長い一冊の本から一部分を切り取って、試験問題が出来上がっていくのですが、この部分を切り取ったのは、著者ではなく問題の出題者ですね。

ということは、「ここから出そう」というところと、「ここまでにしよう」というところに意図があるはずです。「ここまでにしよう」というところは、字数制限が理由であったりするのですけど、長い文章中から「ここから出そう」という冒頭部分は、そう決めた出題者の意図が非常に色濃く反映しているということです。なので、冒頭の一段落、この冒頭の一段落を確認することで、その文章のテーマを押さえなくてはいけないんです。

次に行うのが構造の理解でしたね。構造の理解とは、簡単に言うと段落の相互関係です。段落を押さえる時には、この下位概念としての一文単位でも押さえていかなくてはいけないわけですが、いずれにせよ、ここでは「3つの論理」を常に頭に入れて考えていきましょう。

で、段落の構造が見えて、その結果、中心段落がわかる。論理エンジンのテキストではスペースの都合上、中心段落は一つしかないことが多いようですが、こういう実際の文章を見ていくと、中心段落が何個か出てくることがありますので、そういった段落を集約していくことで、最終的には要旨にアプローチしていこう、ということでした。

以上のように関連する論理エンジンのポイントを、復習代わりにまず提示してから授業に入っていきます。
3年生の授業でも「はい、なぜそうなりましたか?」という思考の筋道、根拠を問う加藤先生のキーワードがポンポンと飛び出します。2つの授業で出てくる回数、実に14回。
目を見張るのは、入試問題を解くのに必要な論理エンジンのポイントの的確なチョイス。それだけ緻密に問題分析をされているのでしょう。

入試問題と論理エンジンとの見事なリンキング

さて、まず加藤先生は、設問文に10個ある形式段落の要点を生徒に押さえさせました。続いて、その要点をベースに、一から十段落までを構造化するよう指示します。
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加藤 構造化とは、例えば「一段落は、単独で存在している」とか、あるいは、一段落の下に、二段落と三段落があって、その2つの段落はイコールの関係になっている、というように押さえることです。

まずはこの文章を4つに分けてみましょう。4つに分けるとすると、最初のグループにはどの段落が入って、2つ目にはどの段落が入って、3つ目4つ目にはそれぞれどの段落が入るのか、それを決めてください。その上で、それぞれ入った複数段落が、どういう相互関係になっているのかを考えて、構造化していただきたい。

5、6分かけて生徒に取り組ませたあと、加藤先生は、どうしてこのような段落の相互関係を問うのか、その理由を論理エンジンのレベル27「段落相互の関係」、レベル28「要旨をとらえる」とリンクさせて説明を始めました。

加藤 さあ、ちょっと行き詰っているかな。
論理エンジンを持っている子は、OS3を出して。OS3のレベル27。持ってない子は、机をくっつけて隣の子に見せてもらってもいいですよ。懐かしいですね。

そのレベル27を見ていくと、……ちゃんとやってあるじゃない。
ここでは、「段落の相互関係」を勉強しました。前半では、例えば2つの形式段落間の相互関係がどのようになっているか――例えば一段落目の具体例が二段落目に書いてある、というような関係を勉強したはずなんです。

そして、ステップ5あたりになると、今度は形式段落が3つ――つまり、AとBという形ではなく、A、B、Cと3つになり、例えば一段落目と二段落目がセットになって、それに対して三段落目がどういう関係になっているか、というようなことを勉強しました。

そしてだんだん、その相互関係が複雑になりました。例えば、因果関係で一段落目と二段落目が結ばれているパターン、あるいはイコールの関係であるとか、対比のパターンであるということを勉強してきたのです。

例えばステップ4、これは対比の関係になっている。その理由はなぜかというと、後半の二段落目のてっぺんに「しかし」が載っているから。こういうのはすごく分かりやすいでしょう。
ということは、この二つの段落の関係を考える時には、二段落目のてっぺんの言葉がうんと大事になってくる。そんなことを勉強してきたはずです。

次に、レベル28を開けてみてください。レベル28からは、文章の要旨をとらえる勉強をしていきました。

それではステップ1を開けてごらん。比較的長めの文章の後半部分に、括弧でくくられているところがあり、その中で筆者が言いたいことは何ですか? という出題がされている。
これは論理エンジンですので、長文ではなく、形式段落は4つしかありません。しかも段落構造で言うと、4つの段落のうちの中心段落のヒントがもう出ています。「ここが中心段落に成り得ますよ」という風に括弧でくくってあって、「この中からポイントとなるのはどれですか?」というように。

論理エンジンのOS3ですから、君たちはきっと正解にたどり着けたと思います。その時、教えてくれた先生も言ったはずですが、ここで学ぶべきは、設問を解いて正解に至ることではなく、文章全体を読解するにあたっては、要旨の確認をして全体の構造化が出来ないといけないということなんです。

よく言うように、センター試験で本文を読んでいる時間は、せいぜい4、5分しかありません。その4、5分で、一読しながら構造化しなければならない。

その際、例えば「段落サイズ」より一つ下の「文のサイズ」から理解していこうとしたら、絶対に時間が足りなくなる。だから少なくとも、段落ごとに押さえていくという発想が必要なわけです。
で、その段落ごとに押さえていく時のポイントは、中心段落を見つけていくことだから、それぞれの形式段落の構造がどうなっているかを意識して読んでいきましょう、ということなんです。その練習が、このOS3のレベル28に、もう出てきていたんですね。ステップ1ではヒントが与えられた上で、文の中心は何ですか?という内容だったでしょう。

今回やっているこの実戦形式では、10個の形式段落がある。この中から中心段落を見つけて、要旨をとりたいわけです。
これは、設問を解くこととは違います。違うけれども、君たちはセンター試験だけを受けるわけではないから、たとえば記述解答を作るためには、言うまでもなく読解の結果として要旨をきちんと捉えられてなくてはならない。

で、その要旨を捉えようとした時に、この10個の形式段落がどういう構造になっているのかが見切れないと困るわけです。
今、5、6分でやってもらったのですが、その時、レベル27やレベル28で勉強したことが、生きていましたか。それが生きてなかったとすると、実は去年、一昨年と勉強してきたことが、ほとんど時間の無駄になってしまうのです。

さて、段落の相互関係を見る時には、全体を見るのではなくて、まず二つの形式段落から始めたわけでしょう。第一段落と第二段落はどういう関係になっているのかを考えて、例えばこれがセットにできるのであれば、これらは括弧でくくれてしまう。

するとその次に三段落がくるわけだから、じゃあこの三段落と、第一第二段落との関係はどうなのかな、と考える。
「これもやっぱり同じグループに入れられる」と考えるかもしれないし、「これはイコールの関係だ」、あるいは、「これは対立関係だ」と考えるかもしれないね。そういう風に一つ一つ段落を増やしていった結果、「ここが中心だ」という段落がわかる。

ちょっと遠回りになるんだけれども、まだ6月も始まったばかり。問題に正解することに焦りすぎてしまうと、最後で力が伸びなくなるから、もう一回OS3に戻っても構わないので、これを的確にやっていくということです。よろしい?

まさに論理エンジンと入試問題を直結させた、実戦的な講義です。大切なのは、論理エンジンのポイントを押さえ、習熟していることが、入試の正答に直結することを示していること。この踏み込みは加藤先生の論理エンジン授業の要でもあります。これがあってこそ、生徒の高いモチベーションが支えられているのでしょう。

さて、段落構造化の答えを導くために最後に見せていただいた加藤メソッド――それは何とグループワークでした。4人ほどで構成される小グループにクラスを班分けし、段落の構造について、自由に討議させるのです。

無駄な雑談もなく、イキイキとテーマに沿った発言を重ねる生徒たち。驚くほどの積極性に感心しつつ、残念ながらここで授業時間が終了となってしまいました。
授業後の先生のインタビューでは、論理エンジンをグループワークで解く意味について深く伺えましたので、ご期待ください。

(【後編】第2回に続きます・・・)

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